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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)2525号 判決 1973年5月15日

控訴人 馬島千鶴子

右訴訟代理人弁護士 岡部勇二

被控訴人 株式会社富士銀行

右訴訟代理人弁護士 松山全一

主文

原判決を取り消す。

控訴人の申立を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。債権者被控訴人、債務者小林義雄間の東京地方裁判所昭和四二年(ヨ)第一、四八二号不動産仮差押事件について同裁判所が同年二月二三日原判決添付物件目録記載の不動産につきなした仮差押決定は控訴人が保証を立てることを条件としてこれを取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決ならびに右仮差押決定の取消を命ずる部分につき仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠の提出、援用および認否は、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決五枚目―記録一四丁―表四行目の「附記登記」の後に「手続」を加え、同表末行「仮登記(甲区六番)」の後に「手続」を加え、同裏初行の「右甲区六番」から同四行目の「あるためで、」までを「申立人が甲区二番の仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をすることができなかったのは、被申立人を債権者とする本件仮差押の登記があるからであり、そのため」と改める。)。

理由

本件不動産(原判決添付物件目録記載の不動産)につき、昭和四二年二月二三日被控訴人を債権者とし小林義雄を債務者とする控訴人主張の仮差押決定がなされ、同日控訴人主張の仮差押登記(各甲区三番)がなされたこと、これに先立つ同年同月一四日受付をもって本件不動産につき金田仁栄を権利者とする停止条件付所有権移転仮登記(各甲区二番)がなされていることおよび控訴人が右仮登記につき昭和四五年一月二七日受付をもって停止条件付所有権移転の付記登記を経由したことは、当事者間に争いがない。

ところで、控訴人は、前記停止条件の成就により昭和四五年四月一〇日代物弁済として本件不動産の所有権を取得したから、右所有権に基づき、しからずとするも、小林に対する本登記請求権者としての地位に基づいて同人の所有権を代位行使し、保証を立てることを条件として前記仮差押の取消を求めるというのであるが、その趣旨は民訴法七四七条の規定に基づいて仮差押の取消を求めるものと解される。

そこで、先ず、控訴人の所有権に基づく仮差押取消の申立について考えるに、前記法条の規定による仮差押取消の申立は、仮差押債務者においてこれをなすべきものであるところ、控訴人の右申立を本件不動産の所有権を取得したことにより仮差押債務者の地位を承継したと主張するものと解しても、控訴人は仮差押債務者の一般承継人ではないから事情変更による仮差押の取消の申立をすることは許されない。それのみならず、控訴人は、いまだ本件不動産について前記のとおり停止条件付所有権移転の仮登記を有するだけであって、本登記手続を経由していないのであるから、被控訴人に対して所有権取得を対抗しえないものというべきであり、したがって、右申立の許されないことは明らかである。

次に、控訴人の債権者代位権に基づく申立について考えるに、控訴人が債権者代位権の行使によって保全しようとする自己の債権は、小林義雄に対する前記仮登記に基づく本登記請求権であると認められるところ、控訴人主張のとおりであるならば、控訴人は小林に対して直ちに本登記請求権を行使しうるのであり、現に控訴人と小林とが共同して本件不動産の右仮登記につき本登記申請手続をしたことは控訴人の自認するところであるから、右請求権を保全するため右仮差押の取消を求める必要はなんら認められない。かえって、昭和三五年法律第一四号不動産登記法の一部を改正する等の法律により新設された不動産登記法一〇五条およびこれにより準用される同法一四六条の規定によれば、仮登記権利者および仮登記義務者間で本登記手続を申請するに足りる手続上の要件が具備された場合においても、右本登記手続をなすについて登記上利害関係を有する第三者があるときは、仮登記権利者において右第三者の承諾または同人に対抗することを得べき裁判の謄本を添付して本登記申請手続をし、これによって本登記手続のなされる際登記官において職権をもって右第三者の登記を抹消することとされているのであり、これを本件についていえば、仮登記権利者たる控訴人は、登記上利害関係ある第三者にあたる仮差押債権者たる被控訴人の承諾書または被控訴人に対抗することを得べき裁判の謄本を添付して本登記申請手続をすれば、本登記手続に際して職権をもって右仮差押登記の抹消がなされることとなったのであって、前記のように本登記手続をなすに足りる要件が具備されたからといって、右本登記請求権に基づき仮差押債務者たる小林に代位して民訴法七四七条による仮差押の取消を求めることは許されないものと解するのが相当である。右と異なる控訴人の主張は、前記法条の規定の趣旨を考慮しない独自の見解であって、採用することができない。

以上述べたところによれば、控訴人の本件申立は、理由がないから、これを却下すべきであるが、記録によれば、原審における昭和四七年二月二八日午後一時三〇分の第四回口頭弁論期日における口頭弁論は裁判官渡辺昭が関与し、控訴代理人および被控訴代理人による各準備書面の陳述ならびに書証の提出、認否がなされ、同年五月一五日午前一一時の第五回口頭弁論期日は延期され、同年同月二九日午前一一時の第六回口頭弁論期日における口頭弁論は裁判官蘒原孟が関与したが、当事者双方従前の口頭弁論の結果を陳述することなく、控訴代理人による書証の提出および被控訴代理人による右書証の認否がなされた後口頭弁論が終結され、同年一〇月九日午前一〇時の第七回口頭弁論期日において原判決が言い渡されたことが明らかである。してみれば、原判決は、基本たる口頭弁論に関与しなかった裁判官がこれをなした点において、違法たるを免れないものというべきである。

よって、民訴法三八七条に従い、原判決を取り消したうえ、控訴人の本件申立を却下することとし、訴訟費用の負担につき、同法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 園部秀信 森綱郎)

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